大判例

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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)10023号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕一、民法第七一五条が使用者責任を認めた立法の趣旨は他人を使用することによりその活動範囲を拡張しうる反面、被用者の行為について責任を負うことが公平の観念に一致するとの見地に立つもので、第三者が当該被用者の行為をその事業の執行と信じたかどうか、それが無理からぬことかどうか、などということとは無関係である。

〔事実と争点〕原告は被告財団法人多摩緑成会に対し同会の事務長で物品購入の代理権を有する訴外金井弘の注文により石油類を販売したが、金二四六〇、六〇五円の未払残代金があるのでその支払を求める。予備的に、かりに金井に代理権がなくても民法第一一〇条の表見代理の法規によりその支払を求める、更に、かりにみぎ表見代理の主張が理由がないとしても、みぎ金井の本件石油買入行為は被告の業務の執行としてなされたもので、訴外金井は被告のために石油を買入れるのでないにかかわらず、そのようなふりをして本件買入をしたので不法行為であることあきらかで、被告は民法第七一五条により使用者として損害賠償義務がある、と主張した。

被告は、訴外金井は緑風会事務長と称していたが理事でないことは勿論、実際には被告の経営する緑風会病院の事務長に過ぎず、第三者と取引する権限はあたえられていない。

原告は民法第七一五条の適用を主張するが、同条にいわゆる業務の執行につきといえる場合は、その行為が外見上その法人の事業の範囲に属するか、又は適当な牽連関係にある場合で、しかも第三者において被用者が法人の事業の執行としてその行為をするものと信じたことが無理からぬと考えられる事情があることを要すると解するのが相当である。ところで本件においては被告は病院経営を主とする財団法人であり、多量のガソリン等油類は必要物資でなく、その購入は被告の事業とはなんら関連性がなく、客観的にも関連性がない。

また原告は金井の代理権限の有無についてたやすく確めることができたのにこれをしなかつたから重大な過失がある。そして民法第七一五条を適用するためには被害者の信頼が使用者の犠牲において保護するだけの価値のあるものでなければならず、しかもこれによつて保護される範囲は民法第一一〇条を類推してえられる範囲と一致する程度に限局すべきである。したがつて民法第一一〇条におけると同様、相手方の不注意によつて権限のない行為を権限があると誤信した場合には、もはや民法第七一五条によつて責任を負わせるべきでないと抗争した。

判決は金井は被告経営の病院の事務長に過ぎないと認定して原告主張の代理権の存在、および表見代理の成立を否定したが、金井の行為は不法行為であり、被告は民法七一五条により使用者責任を負担すべきであると判断した。そして、民法第七一五条に関する被告の前記関係上の見解についてはつぎのように説明してこれを排斥したが、過失相殺の抗弁はこれを採用し、それぞれつぎのとおり説明している。

〔判決理由〕被告はまた民法第七一五条は第三者が法人の事業の執行と信じたことが無理からぬ場合にはじめてその信頼を保護するために適用されるのであつて、第三者が不注意によつて権限のない行為を権限があると誤信した場合には民法第一一〇条の場合と同様に民法第七一五条の適用もないと主張する。しかしながら、民法第七一五条がある事業の被用者の不法行為について使用者に責任を認めたのは、他人を使用して事業を営む者はこれによつてその活動範囲を拡張しそれだけ多くの利益を得ているのであるから、被用者の行為について責任を負うことが公平の観念に合致するとの見地に基くものであつて、第三者がその事業の執行と信じたかどうか、それが無理からぬことかどうかなどという被告のいわゆる信頼の保護とは全く関係のないところにその根拠がある。被告の主張するような権限の有無についての誤信に関し過失があるかどうかというような事柄は、使用者の損害賠償責任についていわゆる過失相殺の事由となることはあつても、その責任を全く否定する事由とはなり得ないのである。従つて、被告は金井の責任について使用者としての責任を免れるわけにはいかない。

ところで、一般に法人との取引に際しては、事務長等の事務責任者的名称を用いた者がこれに当ることが少くなく、相手もそれを信用して取引をすることが少くないけれども、本件石油類の大量取引は被告の主な事業である病院経営と直接の関係はないから、果して被告がそのような取引をする積りかどうか一応理事者について確かめるのが相当であると考えられる。その上前記諸証拠によれば、石油類の代金はすべて被告理事長の振出ではない第三者振出の約束手形、小切手によつて支払われていたことが明らかであるから、この点に少し注意を払えば被告の理事者に問い合わせる等の措置を講ずることができ、損害を少くすることができたであろう。

ことに、昭和三三年四月以降の取引については、年度が改まつたのであるから、被告の理事長に直接代金を請求するとか、代金の支払について理事長振出の小切手によるよう要請するとか、何らかの方法で、金井の権限を確かめる手段を講ずべきであつたと思われる。ところが、原告はかような手段を講ずることなく、漫然と金井と取引を継続し、そのため損害の額を増大させるに至つたものであり、原告の被つた損害については原告側にも過失があるといわなければならない。(古関敏正 石崎正男 高桑昭)

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